人気ブログランキング | 話題のタグを見る

大幹部 無頼

『大幹部 無頼』(監督:小澤啓一)

本作のクライマックスを一言で言うと、「渡哲也が内田良平を刺したいのだが、なかなか刺せない」。その「なかなか刺せない」を描写するための殺陣とロケーションの設定が素晴らしい。
障害物があり幅も狭い電車の車両 ⇒ 高低差が激しい急な土手 ⇒ 川、と視覚的にもダイナミックに変化しながら、誰もが自由に動きにくいロケーションで渡が内田を追いかけ続ける。内田の部下も(障害物として)次々に立ちはだかり、渡哲也のドスはなかなか内田に辿り着かない。

アクションシーンではあるが、それ以上に渡のドスが内田を刺すまでのサスペンスとして緊張感のある場面になっている。
最初に出てくるドラム缶も、つまずいた内田が倒すなどの芝居を誘発する良いアイテムだと思う。
このクライマックスしかちゃんと観れていないので、後日、改めて全編観ます。愛しの松原智恵子様も出ているので楽しみよ。

# by isoda8823 | 2023-06-22 19:45 | えいが道 | Comments(0)

ケイコ 目を澄ませて

ケイコ 目を澄ませて_b0056197_10461334.jpg

『ケイコ 目を澄ませて』(監督:三宅唱)は、聴覚障害で耳の聞こえない女性ボクサーの物語である。
となれば、映画の重点は試合の場面に、、、なっているようには見えない。
むしろ、トレーニングの場面にこそ、映画の歓びが漲っている。

冒頭を始め、幾度も登場するコンビネーションのトレーニング。岸井ゆきの拳がミットを打つ、その腕の軌道が美しい。
物語上の働きを超えて、ただただ美しい運動としてスクリーンに現れていた。
また、リズムよくミットを打つその音が、劇伴の無い今作に「音楽」を与えていたように思う。

「見て真似る」運動の反復も印象的だ。主人公は耳が聞こえないので、ボクシングを「見て真似る」ことでしか覚えられない。
三浦友和の隣に並び立ち、その動きを真似る。少しの時間差をもって運動が反復される。その「ずれ」のリズムが心地良い。
終盤、「見て真似る」運動が伝播し連鎖していく様は少しのおかしみとともに、感動をもたらす。

(鑑賞中に想起したのはマキノ正博の『阿波の踊子』であった。
「明日踊ろうぜ」の反復も素晴らしいが、高峰秀子が無人の部屋で、ついさっきまでそこに居た長谷川一夫の挙動と言葉を真似る場面と重ねたのだろう――)

この運動が2人以上で並び立って行われることは、その感動と無関係ではないだろう。
向かい合うのではなく、同じ方向を見て並び立つ。少し面映ゆい言葉だが、これが「寄り添う」ということなのだろう。

月永雄太による撮影も同様に、被写体に寄り添うような丁度良い距離で心地良い。
16mmフィルムで撮影された東京の風景は本当にさりげなく、それでいて見事にいまの東京を捉えている。
エンドロールで堪能してほしいが、「東京映画」としても素晴らしい作品だった。

# by isoda8823 | 2022-12-28 10:47 | えいが道 | Comments(0)

THE FIRST SLAMDUNK

THE FIRST SLAMDUNK_b0056197_15153125.jpg

『THE FIRST SLAMDUNK』(監督:井上雄彦)
https://slamdunk-movie.jp/

この映画の筋は単純である。
バスケットボールの試合を始めから終わりまで見せる。その中で、選手たちの過去の回想が入ってくる。
つまり、試合の流れが回想場面で断ち切られるような構成になっている。
直線的に進む映画に何度も急ブレーキをかけるようなものなのだが、その回想の積み重ねが結果として終盤のとてつもない加速を生み出している。

この現在(試合)と過去(回想)を往復するという構成は、絶えず手のひらとコートの床を往復するドリブルという運動そのもののようでもあるし、そもそもバスケットボールが敵コートと味方コートを往復し続けるスポーツであることを想起させる。
映画自体が運動と密接に結びついた今作がつまらないわけがなく、その的確かつ緻密な演出と、持たざる者、敗者たちの側から描かれた物語、そしてそういう物語だからこそ輝く天才の存在など、あらゆる要素がひとつになり、恐るべき強度を持つ映画を生み出している。

観終わって、あんなにも充足した気持ちにさせてくれる映画は久しぶりだ。
間違いなく、現在の日本のエンターテイメントの最先端に位置する作品なので、でかいスクリーンで体験していただきたいと切に願う。

# by isoda8823 | 2022-12-20 15:14 | えいが道 | Comments(0)

こういうのも見ました

今年は、久しぶりに映画をたくさん観ています。
そんな中にも病の影響は出ていて、ぎゅうぎゅうのミニシアターはやはりしんどい。
渋谷にある某ミニシアターで、上映間近に一気に人が押し寄せ、ほぼ満席になったのですが、
動悸が激しくなり、半ば気絶するように眠りに落ちました。目覚めてからは気持ちが多少落ち着き、中盤からの鑑賞にはなりましたが、映画を楽しむことができました。
しかし、そこそこの人数を収容するミニシアターに入るのはまだ時期尚早だな、という結論に。

そんな時に、自宅から数駅の所に新しくミニシアターがオープン。
なんと、こけら落としはゴダールをやるというではありませんか。
これは行かねば!とちょっと無理して駆けつけました。

『パッション』
『ゴダールのマリア』(マリアの本/こんにちは、マリア)
『右側に気をつけろ』

の3本を観ることができました。
この劇場は本当に席数が少ないのですが、ゆったりと見られる設計になっていて、そこそこ人が入っても余り気にならず快適に映画鑑賞できました。
もう一度くらい行けると良いのですが。
ちょっと体に無理して観たが故に、週末には体調を崩して寝込んでしまったのは不覚でした。
健康が一番。


その他、今年に入って映画館で観た映画は
『フレンチ・ディスパッチ』(監督:ウェス・アンダーソン)
『アネット』(監督:レオス・カラックス)
『シン・ウルトラマン』(監督:樋口真嗣)
『劇場版仮面ライダーリバイス バトルファミリア/暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー』
『Gのレコンギスタ Ⅳ 激闘に叫ぶ愛』(監督:富野由悠季
『ソー ラブ&サンダー』(監督:タイカ・ワイティティ)
『みんなのヴァカンス』(監督:ギヨーム・ブラック)



# by isoda8823 | 2022-10-03 16:09 | えいが道 | Comments(0)

ブレット・トレイン

ブレット・トレイン_b0056197_12162464.jpg

『ブレット・トレイン』(監督:デヴィッド・リーチ)


何も考えずに楽しめる系の映画ではあるが、しっかりと堅実に作り込んであるし、何より構成の緻密さと絶妙な外し方がうまい。それが原作に依るものかどうかは読んでいないのでわからないが、もし日本で映画化されていたとしても、今作の映画文法には到底及ばないだろう。可能性があるのは、超絶好調な時の三池崇史(× NAKA雅MURA)くらいだろうか。


ポストプロダクションは当然として、いかにプリプロダクションに手間をかけられるかが娯楽映画の生命線だと思う。「すごい短い制作期間でした!」でニコニコできるのは撮影所システムが機能していた時代だけだ(なので、仮面ライダーや戦隊はまだニコニコすることが可能)。おそらくシナリオ制作と、それをいかに映画として演出するかの準備に相当な時間と金をかけた今作に、大森立嗣がタランティーノ風アクション映画で立ち向かうには土台無理があるのだ(大森立嗣にはもっと本人にふさわしいタイプの映画があると思う)。


あらゆる人生が実は互いに影響し合っているのかもしれないということを、言葉(文学)ではなく映像としてちゃんと見せてくれる映画です(間違ってはいないと思う)ので、観てください。

# by isoda8823 | 2022-09-22 12:17 | えいが道 | Comments(0)