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さらば愛する日本よ~密着・押井守の世界挑戦800日~

WOWOWで放送された『ガルムウォーズ』のメイキング『さらば愛する日本よ~密着・押井守の世界挑戦800日~』を、ここ最近何度も観ている。

自主制作を20年以上やってきた身として(いまだに大アマチュアですが)心底思うのは、映画を作る上で最も重要なのは「完成させること」なのだということ。
当然、「完成しないこと」自体が意味を持つ作品も存在する(ホドロフスキーの『DUNE』とか)わけだが、それは例外中の例外だと思う。
やはり、作品は完成した方が良い。

押井守が『ガルムウォーズ』を完成させたということは、驚くべきことだし、感動的なことだ。
90年代末に企画され、ついに制作されることの無かった『ガルム戦記』を、2010年代の映画として撮る。
命題は「完成させること」。
カナダの税制優遇制度を利用し、海外での映画制作の新たなシステムを構築したいというプロデュース側の達成目標、そして、海外の風景でしか成立し得ないファンタジーを撮るという監督側の達成目標。
製作開始当初に描いていた青写真が、カナダ側との交渉の中で後退・変更せざるを得なくなっていく過程は、見ていて本当につらい。
もともとの構想は、ソフトの特典映像として収録されているライカリール(ビデオコンテ)で見ることができるが、そこからカナダ側の要請で切るしかなかった30%(主に戦闘描写)は、実は映画をより豊かにする娯楽要素としても重要な部分だった。
それを削ぎ落とした結果として、「作家性の強い」「いつもの押井作品」に成らざるを得なかった。
そこに関して押井守自身が抱いていた忸怩たる思いの吐露は、この番組のクライマックスだろう。


作ることがテーマだからさ
途中で辞めても良いなら別だけど
最後まで作りきってくれって要請があったから
現実的にどこを落とそうかと枝葉を切っていったら
いつもの私のスタイルの映画だったってだけの話なんだよ!

これが怒らずして何を怒るんだって
それでさ 作家性がどうたらこうたら言われてさ

やりながら 向こうと交渉しながら後手に回らざるを得ない
僕らにとっても石川にとっても これに関わった人間にとっての大きな反省材料
これで勉強するべきだよ 続けていく気があるんだったら


この番組制作時点では、まだ『ガルム・ウォーズ』の日本での公開のめどは経っていない。
この後、スタジオジブリの鈴木敏夫が関わることによって、東宝系での公開が決定し、吹き替え版も作られた。
完成からおよそ2年後のことである。

by isoda8823 | 2019-08-26 10:48 | えいが道 | Comments(0)