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まとまりのない「ヱヴァQ」の感想

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(総監督:庵野秀明)


パンフレットの石田彰(渚カヲル役)インタビューを呼んだ時に、『ヱヴァ序』のアフレコの時点で今回のカヲル君の役割・結末に関しては庵野総監督から聞いていたという記述があって、庵野秀明のブレのなさにちょっと感動してしまいました。

『序』『破』は陽性のエンターテイメント作品として我々古参ファンもパチンコから入ったような新規ファンも喜ばせる作りでしたが、今回の『Q』はそれはもう暗黒のエンターテイメントでした。
爽快感は皆無。ある意味ではとっても痛快。
この構成も、おそらく当初の構想の時点で決まっていたんじゃないかな。
あくまで四部作あるアニメーションの三作目として考えた時に、『序』『破』の興奮から、一気に奈落に突き落として、最後の最後にまさしく「希望は残っているよ、どんな時にもね」という映像で自作へ繋げるという作りは別に間違ってはいないと思います。
ただ、これは毎週放送しているテレビアニメではなく、数年毎に上映される映画作品なのです。
このモヤモヤを抱えたまま、何時公開されるかわからない次回を待つのはなかなか酷です。


というわけでつらつら書いていきますが、僕が激しく納得した点がありまして。
『破』で感動しつつも引っ掛かったところが、シンジが覚醒した際の
「僕がどうなったっていい、世界がどうなったっていい。でも、綾波だけは助ける」
でした。ある側面からは非常に感動的な台詞ですが、好きな女の子を助けるためなら世界の犠牲を厭わないという危険な言葉でもあります。
この言葉を喜んで受け入れて良いものなのかという戸惑いがありました。

今作で、自分自身の意思でそのことを選択し、サードインパクト(未遂)を招いたシンジは自分の行動の結果を突きつけられ、責任を問われます。
ここには、作り手の「嘘をつかない」という信念が現れていて、改めて本気を感じさせていただきました。


『「エヴァ」はくり返しの物語です』とは庵野秀明の新劇場版制作にあたっての所信表明ですが、まさにヱヴァンゲリヲンはエヴァンゲリオンの反復。今作も「新たな物語が幕を開ける」と言ってはおりますが、実は作品内で起きる出来事は『エヴァンゲリオン』とほぼ同じ。ただ、それに対するリアクションであったりはちょっと違う。タイトルの「エ」と「オ」の字が違うのも、同じものでありながらちょっと違う、「反復と更新」という作品の本質を親切にも教えてくれています。
新劇場版シリーズは、劇場公開バージョンの英語タイトルを『序』では「1.0」とカウントして、ソフト化の段階で追加修正を施しタイトルは「1.01」という風に、どんどん更新されていくのが特徴ですが、そもそも「ヱヴァンゲリヲン」自体が「エヴァンゲリオン」の更新(バージョンアップ)なのですね。
今回はエヴァンゲリオンでの第弐拾話~第弐拾六話および第26話までの反復でした。
ということは、次回の完結編は反復を終えての完全な新作。だからこそタイトルがヱヴァンゲリヲンからエヴァンゲリオンへと戻っているのではないかと。


鷺巣詩郎による音楽は今回も大満足。
前回での『彼氏彼女の事情』の音楽のリアレンジも素晴らしかったですが、今回はついに『ふしぎの海のナディア』の音楽、それものっけから「バベルの光」ですよ!
そしてまさかの「ノーチラス号」のテーマ!
大興奮でありました。


僕はこの文章を書いている時点で1回しか観ていないのですが、2回目を観た人たちからは、「1回目よりも楽しめた」という声が上がっていますので、公開が終わるまでにはもう一度観に行こうと思います。


<追加>
正直、1本の映画として楽しめたかと言うと、物足りなかった。
冒頭・後半と見せ場は用意されているが、全体的に情報量を詰め込みすぎて緩急がなくなってしまっているが故に盛り上がれなかったのだ。
いや、あの高揚感のなさについては、あえて盛り上げなかったのではないかとも考えられるのだが。
あの駆け足感はまさに「急」だったのだが、もう少し緩い場面も欲しかったかな。
あ、ピアノの場面はちょっと笑ってしまった!なに、あの馬?!

<さらに追加>
二回目を観てきました。
いやあ、前言撤回。面白かった!!!
その分、引っかかる部分はとことん引っかかるというか。
やはり、あの馬が解せない。
後はシンジ君が頭を大混乱させながらフラフラ歩くあたりとか、びっくりするくらい短絡的な表現をしていて、これは本気なのか、それとも別の計算が働いているのかよくわからない。
そこらへんも含めて、次回作を見て判断です。

<2019年>
そして2019年現在、私の中でのヱヴァQの評価は「普通に面白くない」。
最強アニメーターを揃え、あの時点でのアニメーションとしては最高峰だろうと思いますし、凄い映像が並んでいるんですが、まさに文字通り「並んでる」わけで、映画としてのダイナミズムは感じられません。
で、未だに言い続けますが、あの馬はなんなんだ!

新世紀エヴァンゲリオンのおもしろさの一端は、登場キャラクターの内省的な心情描写をセルアニメーションの技法を解体することで表現したことだと思うんです。
新劇場版は、内面を見せるより外面的な表現を通して内面を描写する、最終的に私小説になった『新世紀~』を純粋に娯楽として語り直す試みだと思ったわけですが、心象描写に短絡的な表現が続出すると、ちょっとどうしたんだと、そんな気持ちになってしまうのです。

ラストシーンでやっと面白い感じになったので、結末がどんな風になるのかは楽しみです。

by isoda8823 | 2012-12-14 11:05 | えいが道 | Comments(0)