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話はわかった、まず飲もう

『マイ・ボス☆マイ・ヒーロー』の最終回はなんだかんだで無難な終わり方だったなぁ、
と感概にふけりつつ、録画していたBS2の井上陽水ライブを見る。
8月19日、世田谷は人見記念講堂でのステージ。結局私がチケットをとれなかったやつだ。
ああ、もしかしたら私もこの客席の中にいたかもしれぬ。
DVD収録のための特別ライブということだったので、後でDVD化されるんだろうが、
番組とは別内容になるんだろうな、ということで録画。
演出は長嶋甲兵

長嶋演出の陽水ドキュメントと言えば、99年の
『21世紀への伝言 井上陽水は何を歌ってきたか』が最初である。
私もこの番組によって陽水に傾倒していった人間だ。
この番組以降、陽水自身の活動が活発になったこともあって、
陽水のライブ特番等が毎年作られるようになった。
その演出のほとんどを長嶋が担当している。

長嶋は7年間、番組の度に、陽水に対してインタビューを行っている。
本人が意図していたかどうかわからないが、番組を辿ると、陽水の心の変遷が見えてくる。
50歳を過ぎて、次第に丸く穏やかになっていく陽水の姿が、そのまま映像に焼き付けられているのだ。にも関わらず、陽水の作る曲はいまだに過激で攻撃的だ。
丸くなっているように見せかけているだけかもしれない。

長嶋が、一貫して注目しているのは陽水の詞である。
その、一見しただけでは意味の良く分からない詞を通して、陽水の歌ってきた時代を読み取ろうというのが、『21世紀への伝言』のひとつのテーマであったし、ライブの一曲一曲に、歌詞を字幕で流しているのは、決して皆がカラオケで歌えるようになどという日テレ的な余計な親切心からではないだろう。

長嶋は、視聴者――主体的にチャンネルを合わせた者であれ、偶然そのチャンネルをつけてしまった者であれ――に対して、井上陽水の言葉を知ることを強要しているのではないか。
詞を目にした瞬間、そしてその詞が井上陽水の口からメロディに乗って放たれたのを耳にした瞬間、世界が、いや、自分自身の世界の見方が総て変わってしまう。それを体験することを彼は強要しているのである。

私もまんまとその罠に嵌ってしまった一人である。
インタビュー出演者見たさに録画してしまったのが間違いだったのだ。
そして、いまだに井上陽水ライブを録画してしまう。
「また何かが起こるのではないか」
そんな不謹慎な期待を胸に秘めながら。

そして、または起こってしまったのである。
長嶋甲兵の罠に、私はまたもやまんまと嵌ってしまったのだ、
呆然とする私の目の前に置かれたテレビの、ブラウン管(平面ではない)の中で、
あの井上陽水が涙を流していた。
by isoda8823 | 2006-09-21 16:58 | 三度の飯よりグミ | Comments(0)