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ナッシュビルとアルトマンと悪意

『ナッシュビル』(監督:ロバート・アルトマン)

アメリカで最も保守的な町・ナッシュビルに集う総勢24人の男女の5日間を淡々と、なのにダイナミックに描写する、政治的音楽映画。
群像劇の醍醐味のひとつは、様々な登場人物の物語が絡み合い、最終的にひとつの場面に収束していく「運命の奇跡」みたいなものだと思うんですが、『ナッシュビル』に登場する人々の物語は、まず絡み合うことはありません。
大物カントリー歌手、スターを夢見る音痴の娘、病気の妻を見守る老人、病気の叔母などそっちのけで遊ぶ少女、BBCの記者だと偽って傲慢に取材を続ける似非リポーター、不倫に溺れていく白人ゴスペル歌手、巨大なバイクにまたがる謎の風来坊、彼らの物語はひたすらすれ違い続け、すれ違ったまま、ひとつの場所――大統領候補のキャンペーンイベントへ集います。
ここでも、それぞれの物語が絡むことはありません。
クライマックスにある決定的な事件が起こり、映画は急速にエンディングへ向かっていきます。それぞれの物語は、それぞれの終局を迎えます。
会場に響く「私は気にしない」の歌声も、彼ら彼女らを繋ぐことはありません。ただ、歌声が響いているのです。
なのに、こんなに心が高ぶるのはなぜか!!!!!!

この、アンチドラマチックな構成の映画を観て、私は心のそこから幸福感を覚え、感動しました。登場人物たちの人間像を不足なく描写する演出とキャストの見事な芝居、2時間40分を軽快なテンポで見せる編集、そして素晴らしい楽曲たち。
ああ、映画って素晴らしい!!!

にしても、あのクライマックスの事件です。
ロバート・アルトマンは、とても性格の悪い奴なんだと思います。
全編に渡って性格の悪さは顔を見せてますが、クライマックスに至って、その悪意は決定的に画面を覆います。
カントリーソングが象徴する「アメリカ」に対するアルトマンの悪意。
この映画自体が会社からの頼まれ仕事だったそうで、『ボウイ&キーチ』(未見。ビデオ借ります!)の制作と交換条件で引き受けたらしいですが、この恩を仇で返すようなやりかた!恐ろしい男です、ロバート・アルトマン。
by isoda8823 | 2011-08-30 16:30 | えいが道 | Comments(0)